はじめに
お盆の時期になると、取引先へのお中元や暑中見舞いの贈答を検討される医療機関も多いと思います。こうした贈答品の費用は、税務上「交際費」として扱われます。
交際費は原則として経費になりませんが、年800万円までは損金にできる特例があり、ほとんどの医療法人がこの枠を使っています。
ただし持分なし医療法人の場合、利益が積み上がるとある年から突然この枠が使えなくなります。今回は、自院が該当しないかを確認する方法と、超えそうな場合の備えについてお伝えします。
800万円の枠が使えるかどうかは、出資金の額で決まります
交際費の800万円の枠は、期末の資本金または出資金の額が1億円以下の法人に認められています。医療法人の場合も、この出資金の額が1億円以下かどうかで判定します。
ところが医療法人には、出資金という科目がある法人とない法人があります。
持分あり医療法人(経過措置型)には出資金があります。その額をそのまま1億円と比較すればよく、設立時の出資金は通常1億円以下にされる医療機関が多いかと思います。そのため、毎年800万円まで交際費を損金算入できます。
持分なし医療法人には出資金という科目がありません。そこで、純資産の額をもとに出資金に相当する金額を計算し、それが1億円を超えないかを判定することになっています。この金額は利益の蓄積とともに大きくなっていくため、注意が必要です。
なお、持分の有無は定款の定め(退社時の払戻請求権や解散時の残余財産分配請求権があるか)によって決まります。平成19年4月1日以降に新しく設立された医療法人は、原則として持分なしです。判然としない場合は定款をご確認ください。
以下は、持分なし医療法人を前提にお話しします。
持分なし医療法人の判定額の求め方
判定額は、次の3ステップで求めます。いずれも決算書から確認できます。
①純資産合計を確認する
貸借対照表の純資産の部の一番下にある金額です。
②当期利益を差し引く
判定は期首時点の純資産で行うため、当期の利益を除きます。
③基金を差し引く
基金は貸借対照表では純資産の部に計上されていますが、この判定では負債として扱われます。基金には拠出者への返還義務があるためです。
【判定の目安】
純資産合計 - 当期利益 - 基金 = 約1億6,667万円を超えていないか
この金額を超えていると、800万円の枠が使えなくなります。
※正確には(期末の総資産の帳簿価額 - 期末の総負債の帳簿価額 - 当期利益(または+当期損失))× 60% が1億円を超えるかどうかで判定します。この計算上、基金の額は総負債の帳簿価額に算入され、代替基金は算入されません。上記はこれを決算書ベースで確認しやすくした目安です。
決算書のどこを見ればよいか
持分なし医療法人の貸借対照表では、純資産の部はおおむね次のような構成になっています。
純資産の部
Ⅰ 基金 ←③で差し引く金額
Ⅱ 積立金
代替基金
繰越利益積立金
Ⅲ 評価・換算差額等
純資産合計 ←①で確認する金額
出典:厚生労働省「医療法人会計基準を適用する場合の貸借対照表の様式について」を参考に作成
科目名や表示は法人によって異なる場合がありますので、あくまで目安としてご覧ください。
基金を多く集めて設立した法人ほど、判定額は小さくなります。純資産合計だけを見て「もう超えている」と判断する前に、基金の額を確認してみてください。
枠が使えなくなると、どれだけ影響があるか
医療法人は剰余金の配当が禁止されているため、利益は法人内に蓄積されていきます。持分なし医療法人の場合、純資産が増えても出資持分の評価という形では表面化しないため、気づかないうちにラインを超えているケースがあります。
では、超えると具体的にどうなるのか。仮の数字で見てみます。年間の交際費が800万円で、内訳が次のような医療法人を想定します。
・接待飲食費(1人1万円超のもの):300万円
・お中元・お歳暮・取引先への慶弔費など:500万円
| 損金にできる金額 | |
|---|---|
| 枠が使える場合 | 800万円(全額) |
| 枠が使えない場合 | 150万円 (接待飲食費300万円の50%のみ) |
| 差額 | 650万円 |
実効税率を30%とすると、税負担が約195万円増える計算になります。
なぜこれほど差が出るかというと、枠を失った場合に使える50%の特例は、接待飲食費にしか適用されないからです。お中元やお歳暮などの贈答品は接待飲食費ではないため、1円も損金になりません。贈答品の割合が高い法人ほど、影響は大きくなります。
超えそうなときは、1年前から準備を
決算を組む段階で「来期はラインを超えそうだ」と分かった場合、その決算で引当金を計上しておくことで、翌期の判定額を下げられる可能性があります。
引当金は会計上、負債として計上されます。負債が増えれば、その分だけ純資産は圧縮されます。この判定は純資産をもとに行われますので、結果として判定額が下がるという仕組みです。
役員退職給付引当金や賞与引当金などが考えられますが、思いついてすぐ計上できるものではありません。特に役員退職給付引当金は、役員退職金規程を整備し、支給基準を明確にしたうえで、合理的な見積りに基づいて計上する必要があります。
純資産がラインに近づいてきた段階で、規程の整備から着手しておくことが重要です。
あわせて押さえておきたい2つのこと
1人あたり1万円以下の飲食費は交際費に含めなくてよい
社外の相手との飲食で1人あたり1万円以下であれば、そもそも交際費から除外できます(令和6年4月1日以後の支出。それ以前は5,000円以下)。参加者の氏名や人数を記録した書類の保存が必要です。800万円の枠を節約する意味でも押さえておきたい取扱いです。
従業員への慶弔金は交際費ではありません
取引先への慶弔費は交際費ですが、従業員やその親族への慶弔金は、社内規程など一定の基準に基づくものであれば福利厚生費になります。
まとめ
・800万円の枠は、期末の資本金または出資金の額が1億円以下の法人に認められる
・持分なし医療法人は出資金がないため、「純資産合計 - 当期利益 - 基金」が約1億6,667万円を超えると枠が使えなくなる
・基金は純資産の部に計上されているが、この判定では負債として扱われる
・枠を失うと、使えるのは接待飲食費の50%のみ。お中元やお歳暮などの贈答品は1円も損金にならない
・超えそうな場合は、引当金の計上により純資産を圧縮する方法があるが、規程整備など1年前からの準備が必要
・持分あり医療法人は出資金の額で判定するため、通常は毎年800万円まで損金算入できる
・1人1万円以下の社外飲食費は交際費から除外できる
・従業員への慶弔金は交際費ではなく福利厚生費
※本コラムは令和8年8月12日現在の法令等に基づいて作成しています。今後の法令改正等により内容が変わる場合があります。
