はじめに
「賃貸借契約書の面積が99㎡以下だから、小規模な住宅として徴収額の計算をしている」——役員社宅の賃貸料相当額をそのように処理しているケースを見かけることがあります。しかし、その判定が誤りである可能性があります。
役員社宅とは、会社が役員に住居を貸し与える制度です。会社が支払う家賃を経費にしつつ、役員の税負担を抑えられるため、節税効果の高い手法として多くの中小企業で活用されています。今回は役員から徴収する金額の判定でよく起きる落とし穴と、あわせて知っておきたい注意点を解説します。
まず押さえておきたい基本の仕組み
役員に社宅を貸す場合、会社は役員から毎月「賃貸料相当額」を受け取る必要があります。賃貸料相当額とは、役員が会社に支払うべき家賃の目安となる金額のことです。
会社が役員から受け取る家賃が賃貸料相当額以上であれば、社宅として提供している経済的利益に所得税がかかりません。一方、受け取っている家賃が賃貸料相当額より低い場合や、無償で貸与している場合は、賃貸料相当額との差額分が役員への給与として所得税の対象になります。
小規模な住宅かどうかで負担額が大きく変わる
この賃貸料相当額の計算方法は、「小規模な住宅かどうか」によって大きく変わります。小規模な住宅の定義は以下のとおりです(国税庁タックスアンサーNo.2600)。
| 建物の種類 | 小規模な住宅の基準 |
|---|---|
| 木造等(耐用年数30年以下) | 132㎡以下 |
| RC造・重量鉄骨等(耐用年数30年超) | 99㎡以下 |
小規模な住宅に該当する場合の賃貸料相当額は、固定資産税課税標準額(毎年送られてくる課税明細書に記載されている金額)をもとにした計算式で求めます。一般的にかなり低い金額になります。
一方、小規模な住宅に該当しない場合は計算方法が変わり、賃貸料相当額が大幅に高くなります。第三者からマンション等を借り上げて役員に貸している場合は、「会社が家主に支払っている家賃の50%」と「自社所有と仮定した場合の計算額」のどちらか高い金額が賃貸料相当額になります。
㎡判定の落とし穴:契約書の面積≠判定に使う面積
ここが特に見落とされやすいポイントです。区分所有の建物(マンション等)を役員社宅としている場合に注意が必要です。
重量鉄骨造のマンションを役員社宅として貸与している場合を考えてみます。この場合、99㎡の判定に使う面積は、専有面積にあん分した共用部分の面積を加えた面積で判定します。ところが、賃貸借契約書に記載されている面積は、エントランス・廊下・エレベーターホールなどの共用部分を含まず、専有面積のみが記載されていることがほとんどです。
そのため、例えば契約書の面積が80㎡であっても、共用部分を加算すると99㎡を超えるケースがあります。区分所有の建物では、契約書の面積だけで判断するのは危険です。
正確な面積を確認するには、以下の書類を取得することをお勧めします。
不動産登記(建物の登記事項証明書)
建物の構造・築年数・専有部分と建物全体の床面積を確認できます。共用部分のあん分計算に使用します。
固定資産税・都市計画税の課税明細書
マンションなどの区分所有建物の場合、共用部分をあん分した後の面積が記載されているため、判定用面積の確認に便利です。借上げ社宅の場合、会社は物件の所有者ではないため、家主に課税明細書の写しの提供を依頼する必要があります。
豪華社宅には通常の計算式が適用されない
もう一点、見落としがちな注意点があります。床面積が240㎡を超える物件は、「豪華社宅」とみなされる可能性があります。豪華社宅に該当すると、小規模・非小規模の計算式は一切適用されず、通常支払うべき使用料に相当する額(実際の市場家賃相当額)がそのまま賃貸料相当額になります。
また、床面積が240㎡以下であっても、プールや役員個人の嗜好を著しく反映した設備がある場合も豪華社宅に該当することがあります。高額物件を役員社宅として検討する際は、この点も確認しておく必要があります。
駐車場代は役員社宅の賃貸料相当額に含まれない
役員社宅に付随する駐車場についても注意が必要です。会社が駐車場代を負担している場合、その金額は法人の経費にはなりません。
そのため、会社が駐車場代を含めて支払っている場合は、駐車場代を役員から全額徴収する必要があります。立替払いの形で処理し、役員から駐車場代を回収するようにしてください。この処理を怠ると、駐車場代が役員への経済的利益として給与課税の対象になる可能性があります。
まとめ
・役員社宅の賃貸料相当額は「小規模な住宅かどうか」で計算方法が大きく異なる
・小規模の判定基準:RC造等は99㎡以下、木造等は132㎡以下
・区分所有の建物(マンション等)は、判定に使う面積が専有面積+あん分した共用部分の面積であり、契約書の専有面積のみではない
・正確な面積は不動産登記または固定資産税の課税明細書で確認する
・床面積240㎡超またはプール等がある場合は豪華社宅として通常の計算式が適用されない
・役員社宅に付随する駐車場は法人経費にならないため会社が負担している場合は役員から全額徴収する
※本コラムは令和8年7月1日現在の法令等に基づいて作成しています。今後の法令改正等により内容が変わる場合があります。
