はじめに
年次有給休暇(以下、年休)は労働者の権利として労働基準法で定められており、心身のリフレッシュや私生活の充実のために重要な制度です。
2019年4月からは年10日以上の有給休暇が付与された従業員には、年5日以上の有給休暇を取得させることが事業主の義務となっています。
しかし、日本では年休の取得率が低く、厚生労働省の調査によれば、2022年の年休取得率は約58.3%にとどまっています。
こうした状況を改善するため、「計画的付与制度」の導入が注目されています。
本コラムでは、年休の計画的付与制度の概要、メリット・デメリット、導入手順などについて解説します。
年次有給休暇の計画的付与制度とは
制度の概要
年休の計画的付与制度とは、労使協定を締結することにより、年休のうち5日を除いた残りの日数について、計画的に休暇取得日を指定する制度です。
労働基準法第39条第6項に基づいており、従業員の年休取得を促進するための仕組みとなっています。
この制度では、事業者が一方的に休暇日を指定するのではなく、労働者の代表と協議のうえで決定することがポイントです。
年5日については労働者が自由に取得できる権利を保障し、残りの日数について計画的な取得を促す仕組みとなっています。
計画的付与の方式
計画的付与には主に以下の方式があります。
・企業一斉付与方式:会社全体で休業する日に年休を充てる方式(例:夏季・冬季休暇、ゴールデンウィークの谷間の日等)
・部署別付与方式:部署ごとに交代で休業する日に年休を充てる方式
・個人別付与方式:個人ごとに年間の休暇取得計画を立てる方式
計画的付与導入のメリット
企業側のメリット
・業務の計画性向上:事前に休暇予定が把握できるため、業務の調整や人員配置が計画的に行えます。
・年休取得率の向上:制度導入により従業員の年休取得率が上昇し、「年5日の年休取得義務」への対応がしやすくなります。
・労務管理の効率化:計画的な年休取得により、業務の繁閑に合わせた人員配置が可能となります。
・人材の定着:従業員の年休取得が促進されることで、働きやすい職場環境の実現につながり、人材の定着率向上が期待できます。
従業員側のメリット
・計画的な私生活の充実:休暇日が事前に決まることで、旅行や家族行事などの予定を立てやすくなります。
・休暇取得への心理的障壁の軽減:「皆が休むから」という理由で休暇を取得しやすくなります。
・ワークライフバランスの向上:定期的な休暇取得により、仕事と私生活のバランスが改善されます。
・健康管理の促進:適切な休息が確保されることで、心身の健康維持につながります。
計画的付与導入の注意点・デメリット
・労働者の自由な取得権との調整:年休は本来、労働者が自由に取得できる権利であるため、計画的付与が労働者の権利を過度に制限しないよう配慮が必要です。
・業務繁忙期の調整:業務の繁忙期と休暇取得時期が重なる場合の調整が必要となります。
・労使協定の締結プロセス:従業員の理解と協力を得るための丁寧な説明と協議が求められます。
・柔軟な運用の必要性:急な業務変更や従業員の個別事情に対応できる柔軟性も必要です。
計画的付与制度の導入手順
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現状分析と課題の把握
まずは現在の年休取得状況を分析し、どのような課題があるかを明確にします。
部署ごとの取得率の差、特定時期への集中など、現状を正確に把握することが重要です。
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制度設計
以下の点を検討し、自社に適した制度を設計します。
– どの方式(企業一斉、部署別、個人別)を採用するか
– 計画的付与の対象とする日数
– 年間スケジュールの設定方法
– 例外的な変更が必要な場合の対応方法
※今まで公休であったものを計画的付与の対象日としてしまうと労働条件の不利益変更に当たる可能性があるため注意が必要です。
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労使協定の締結
計画的付与を実施するためには、労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者との間で書面による労使協定を締結する必要があります。
協定には以下の内容を含めます。
– 計画的付与の対象労働者の範囲
– 対象となる年次有給休暇の日数
– 計画的付与の具体的方法
– 年休を与える時季
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従業員への周知
制度の目的、内容、メリットについて従業員に丁寧に説明し、理解と協力を求めます。
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運用開始と定期的な見直し
制度を開始した後も、運用状況を定期的に確認し、必要に応じて改善を行います。
従業員からのフィードバックを取り入れることも重要です。
まとめ
年次有給休暇の計画的付与制度は、従業員の年休取得促進と企業の業務計画の両立を図る有効な手段です。
導入にあたっては、労使双方のメリットを考慮した制度設計と丁寧な合意形成プロセスが重要です。
また、制度導入後も運用状況を確認し、必要に応じて改善を行うことで、より効果的な制度となります。
働き方改革が進む中、従業員のワークライフバランスの実現と企業の生産性向上の両立は重要な課題となっています。
計画的付与制度を上手に活用し、従業員も企業も満足できる休暇制度の構築を目指しましょう。