はじめに
新しい事業を始める際には、様々な初期費用が発生します。
この初期費用の中で、特に税務上重要な位置づけとなるのが「開業費」と「創立費」です。これらの費用は、事業開始前に発生する支出でありながら、会計処理や税務処理において特別な取り扱いがなされています。
本コラムでは、開業費と創立費の概念、会計上および税務上の取り扱い、そして実務上の注意点について詳しく解説します。
開業費と創立費の基本概念
開業費とは
開業費とは、事業を開始するために支出する費用のことを指します。
具体的には、事業開始前の市場調査費、広告宣伝費、従業員の募集・訓練費用などが該当します。
個人事業主の場合も法人の場合も発生する費用です。
創立費とは
創立費は、法人設立のために直接要した費用を指します。
定款作成費用、登記関連費用、設立時の株式発行費用などが含まれます。
当然ながら、法人でのみ発生する費用となります。
会計上の取り扱い
開業費の会計処理
開業費は、会計基準上、原則として支出時に費用(営業外費用)として処理します。
ただし、繰延資産に計上することもでき、この場合は5年以内に定額法により償却します。
さらに効果が期待されなくなったものについては一時の費用とします。
創立費の会計処理
創立費も開業費と同様に会計基準上、原則として支出時に費用(営業外費用)として処理します。
また繰延資産として計上することもできる点や、効果が期待されなくなった場合の取り扱いも同じです。
税務上の取り扱い
税務上では、開業費も創立費も繰延資産として任意で償却が可能です。
つまり償却期間・償却額を自由に設定して償却することができます。
具体的な開業費・創立費の例
開業費の具体例
・市場調査費: 新規事業の市場性や競合状況を調査するための費用
・広告宣伝費: 開業前の広告、チラシ、看板等の制作・掲示費用
・研修費: 開業前の従業員教育・訓練費用
・コンサルタント料: 事業計画策定のためのコンサルティング費用
創立費の具体例
・定款作成費用: 公証人手数料や印紙税を含む定款作成に関わる費用
・登記費用: 法人設立登記の際の登録免許税や司法書士報酬
・発起人会費用: 会社設立に関わる発起人の会議費用
・創立事務費: 設立手続きに関わる各種事務費用
・設立登記手数料: 法務局に支払う手数料
開業費・創立費と他の費用との区別
開業準備のための資本的支出との区別
開業前に購入した固定資産(建物、機械設備、車両など)は開業費ではなく、それぞれ該当する固定資産として計上します。
これらは開業費とは区別して、各資産の耐用年数に応じた減価償却を行います。
実務上の注意点
記帳・証憑の保存
開業費や創立費として計上する費用については、その支出の目的や内容を明確にするために、領収書やインボイスなどの証憑書類をしっかりと保存しておくことが重要です。
税務調査の際にも説明できるよう、支出の内容と事業との関連性を明確にしておきましょう。
開業時期の明確化
開業費として処理できるのは、あくまでも「開業前」に発生した費用です。したがって、開業日(事業の実際の開始日)を明確に定めておくことが重要です。
個人事業主の場合は「青色申告承認申請書」の提出時に開業日を申告することになります。
消費税の取り扱い
開業費や創立費に係る支出に含まれる消費税については、原則として繰延資産の取得価額に含めて処理します。
ただし、課税事業者で消費税の仕入税額控除を適用する場合には、消費税額を区分して処理することも可能です。
開業費・創立費の活用戦略
税務メリットの最大化
開業費・創立費の処理方法を適切に選択することで、初年度の課税所得を調整できる場合があります。
特に初年度から利益が見込まれる場合には5年均等償却を選択し、逆に赤字が見込まれる場合には一括償却するなどの戦略が考えられます。
資金繰りへの影響
開業費や創立費の支出は、創業時の貴重な資金を使うことになります。
これらの費用が過大にならないよう、創業計画の段階から適切に見積もっておくことが重要です。
また、これらの費用に対する資金調達手段(創業融資など)も事前に検討しておくべきでしょう。
まとめ
開業費と創立費は、新規事業開始時に発生する重要な費用です。
これらの費用の取り扱いを適切に理解し、計画的に処理することで、新規事業のスムーズなスタートを財務・税務面からサポートすることができます。
特に創業期は様々な課題に直面しがちですが、税理士などの専門家に相談しながら、適切な会計処理・税務処理を行うことをお勧めします。