はじめに
青色申告を行う個人事業主の方にとって、家族従業員の給与をどのように取り扱うかは重要な税務上のポイントとなります。
特に「青色専従者給与」の制度は、事業に従事する家族の労働を正当に評価し、経費として認めるための重要な仕組みです。
本コラムでは、青色専従者給与の基本概念からメリット、注意点まで、実務的な観点から詳しく解説します。
青色専従者給与とは
青色専従者給与とは、青色申告者が事業に専従する配偶者やその他の親族(青色専従者)に支払う給与のことです。
この制度により、事業主は青色専従者に支払った給与を必要経費として計上することができます。
青色専従者として認められるためには、以下の条件を満たす必要があります。
1.青色申告者と生計を一にする配偶者やその他の親族であること
2.年齢が15歳以上(その年の12月31日現在)であること
3.その年を通じて6ヶ月を超える期間、その事業に専ら従事していること
「専ら従事」とは、常時従事して他の職業を持たないことを意味します。学生などは学業が主たる活動であるため基本的には専従とみとめられません。
青色専従者給与の届出と手続き
青色専従者給与を必要経費として認めてもらうためには、以下の手続きが必要です
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青色専従者給与に関する届出書の提出
青色専従者がいる場合、「青色専従者給与に関する届出書」を税務署に提出する必要があります。この届出書には以下の内容を記載します
– 青色専従者の氏名、年齢、続柄
– 青色専従者の職務内容
– 青色専従者に支払う給与の金額(月額)
この届出書は、原則として青色専従者給与を支払う年の3月15日までに提出する必要があります。
ただし、新規開業の場合や新たに専従者がいることとなった場合は、開業の日や専従者がいることとなった日から2ヶ月以内に提出することになります。
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給与の支払いと記録
青色専従者給与は、実際に支払われなければなりません。
また、その支払いの記録を帳簿に明確に記載する必要があります。
具体的には以下の項目に注意しましょう。
– 毎月一定の日に給与を支払うこと
– 給与支払簿などに記録すること
– 給与から所得税を源泉徴収すること
– 年末には源泉徴収票を作成すること
青色専従者給与の金額制限
青色専従者給与の金額が、必要経費として認められるには、以下の点が考慮されます。
– 青色専従者の職務内容、労働時間、労働日数
– 事業主の所得金額
– 同様の業務に従事する一般の従業員の給与水準
– 青色専従者の年齢、経験、能力、資格など
青色専従者給与のメリット
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所得分散による節税効果
家族全体の所得税負担を軽減できる可能性があります。
事業主の所得が高い場合、その一部を青色専従者に分散させることで、累進課税の効果により全体の税負担が軽減されることがあります。
経営の透明性向上
家族従業員の労働を正当に評価し、給与として支払うことで、経営の透明性が向上します。これは事業承継の準備としても有効です。
青色専従者給与の注意点
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実態を伴わない給与は認められない
青色専従者が実際に事業に従事していなければ、給与を支払っても必要経費として認められません。
税務調査の際には、実際の勤務実態の確認が行われることがあります。
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源泉徴収の義務
青色専従者に支払う給与からは、一般の従業員と同様に所得税を源泉徴収する義務があります。
青色専従者給与と白色申告の家族従業員との違い
白色申告者も家族従業員に給与を支払うことができますが、青色専従者給与との間には重要な違いがあります。
項目 |
青色申告(青色専従者給与) |
白色申告(事業専従者控除) |
必要経費計上 |
実際に支払った給与(合理的な範囲) |
配偶者:86万円、その他:50万円が上限 |
届出 |
青色専従者給与に関する届出が必要 |
確定申告書に記載するのみ |
給与支払の実態 |
実際の支払が必要 |
控除であり実際の支払いは要件でない |
源泉徴収 |
必要(一定の場合を除く) |
不要 |
青色専従者給与の税務調査ポイント
税務調査では、青色専従者給与について以下の点が重点的にチェックされます。
1.実際の従事実態:労働日数、労働時間、具体的な業務内容
2.給与の支払い実態:帳簿への記録、実際の資金移動
3.給与額の妥当性:同業他社の従業員給与との比較
4.届出と実態の一致:届出内容と実際の勤務状況の整合性
こうした調査に備えるためには、日頃から以下の点に注意することが重要です。
– 青色専従者の業務内容や勤務時間を記録する
– 給与の支払いを銀行振込など明確な方法で行う
– 給与支払簿を適切に作成・保管する
– 源泉徴収や年末調整を適正に行う
まとめ
青色専従者給与制度は、家族経営の事業において、家族の労働を正当に評価し、税務上も認めてもらうための重要な仕組みです。
適正に運用すれば節税効果も期待できますが、形式的な運用は税務調査で否認されるリスクがあります。
青色専従者給与制度の活用を検討されている方は、事前に税理士などの専門家に相談し、自身の事業形態や家族構成に最適な方法を選択することをお勧めします。
適切な制度活用により、事業の発展と家族全体の将来設計につなげていきましょう。