はじめに
事業主の皆様にとって、労働保険の手続きは避けて通れない重要な業務の一つです。
特に年に一度の労働保険料の申告・納付手続きは、適正に行わなければ追加徴収や罰則の対象となる可能性もあります。
今回は、労働保険の申告書について、その概要や記載方法、注意点などを詳しく解説いたします。
労働保険とは
労働保険とは、労災保険と雇用保険を総称したものです。
労災保険は労働者が業務上や通勤途中に負傷したり病気になったりした場合に給付を行い、雇用保険は労働者が失業した場合や育児・介護のために休業した場合などに給付を行う制度です。
原則として、労働者を一人でも雇用する事業主は、労働保険の加入手続きを行い、保険料を納付する義務があります。
年度更新手続きとは
労働保険料の申告・納付は「年度更新」と呼ばれ、毎年6月1日から7月10日までの期間に行います。
この手続きでは、前年度の確定保険料と当年度の概算保険料を計算し、申告・納付を行います。
申告書の種類
労働保険の申告書には主に以下の種類があります。
- 一般の事業:労働保険料等算定基礎賃金等の報告
- 建設の事業: 労働保険料等算定基礎賃金等の報告(建設の事業)
- 有期事業: 労働保険料等算定基礎賃金等の報告(有期事業)
申告書の記載方法
申告書の主な記載項目とポイントを解説します。
-
事業主の情報
– 労働保険番号
– 事業の名称・所在地
– 事業主の氏名または名称
– 事業の種類・業種
– 電話番号
-
労災保険に関する部分
確定保険料の算定
前年度(4月1日から翌年3月31日まで)に実際に労働者に支払った賃金総額を記入します。
この賃金総額に、事業の種類ごとに定められた労災保険料率をかけて、確定保険料を算出します。
概算保険料の算定
当年度(4月1日から翌年3月31日まで)に労働者に支払う見込みの賃金総額を記入します。
この賃金総額に、事業の種類ごとに定められた労災保険料率をかけて、概算保険料を算出します。
-
雇用保険に関する部分
雇用保険についても、労災保険と同様に確定保険料と概算保険料を算出します。
ただし、雇用保険の場合は対象となる労働者(被保険者)のみの賃金が対象となります。
確定保険料の算定
前年度に雇用保険の被保険者に支払った賃金総額を記入します。
この賃金総額に、一般の事業の場合、事業主負担分(現在は0.95%)と被保険者負担分(現在は0.6%)の雇用保険料率及び労災保険料率(現在は0.3%)を掛けて、確定保険料を算出します。
概算保険料の算定
当年度に雇用保険の被保険者に支払う見込みの賃金総額を記入します。
この賃金総額に、雇用保険料率および労災保険料率を掛けて、概算保険料を算出します。
-
納付すべき保険料の計算
確定保険料と前年度に納付した概算保険料との差額、および当年度の概算保険料を合計して、納付すべき金額を算出します。
申告書作成の注意点
-
賃金総額の正確な把握
賃金総額には、基本給だけでなく、残業手当、通勤手当、賞与など、労働の対償として支払われるすべての金銭が含まれます。
ただし、退職金や結婚祝金など、労働の対償とは言えない金銭は含みません。
-
保険料率の確認
労災保険料率は事業の種類によって異なります。
また、メリット制により、過去の災害発生状況によって料率が増減することもあります。最新の保険料率を確認することが重要です。
-
継続事業と有期事業の区別
建設業などでは、継続事業と有期事業の区別が必要になることがあります。
-
期限内の手続き
申告・納付期限(7月10日)を過ぎると、延滞金が発生する場合があります。
期限内に手続きを完了することが重要です。
電子申請について
労働保険の年度更新手続きは、電子政府の総合窓口「e-Gov」を通じて電子申請することも可能です。
電子申請のメリットには以下のようなものがあります。
-24時間365日いつでも申請可能
-窓口に出向く必要がない
-申請書の記入ミスが減少
-申請状況をオンラインで確認できる
電子申請を行うには、事前に電子証明書の取得やe-Govへの利用者登録が必要となります。
労働保険事務組合の活用
小規模事業主の方は、労働保険事務組合に事務を委託することも検討されるとよいでしょう。
労働保険事務組合に委託すると、以下のようなメリットがあります。
-専門家による適正な事務処理
-保険料の分割納付が可能(通常は年3回まで)
-事務負担の軽減
よくある質問と回答
Q1: 賃金総額に含まれる手当と含まれない手当は?
含まれるもの:基本給、残業手当、通勤手当、住宅手当、家族手当、賞与など
含まれないもの:退職金、結婚祝金、傷病手当金、出産手当金など
Q2: 労働者が年度の途中で入社・退社した場合は?
実際に支払った賃金のみを計上します。
年度途中の入社・退社であっても、その期間に支払った賃金を賃金総額に含めます。
Q3: 保険料の納付方法は?
納付書を使用して金融機関やで納付するほか、口座振替やe-Govからインターネットバンキングでの納付も可能です。
おわりに
労働保険の申告書の作成・提出は、事業主の重要な義務の一つです。
正確な賃金総額の把握と適切な保険料率の適用により、適正な保険料の納付を行いましょう。