1.はじめに
皆様、確定申告や年末調整の時期に、「扶養控除」という言葉を目にされる機会が多いかと思います。
特に、ご子息・ご息女が大学生でアルバイトをされているご家庭では、「年収103万円の壁」という言葉が、税金計算における一つの大きな論点として認識されていたことでしょう。
実は、この「壁」と深く関連する二つの用語、「特定扶養親族」と「特定親族」について、その違いを正しく理解しておくことは、節税対策を行う上で非常に重要になります。
特に、令和7年度の税制改正で、「特定親族」が定義されたことにより、家計への影響も大きく変わることが予想されます。
本コラムでは、これら二つの「扶養親族」に関する制度について、そのポイントと今後の活用法を解説いたします。
2.知っておきたいこれまでの「特定扶養親族」
まず、令和6年以前に適用されていた「特定扶養親族」についてご説明します。
これは、扶養控除の一区分であり、納税者と生計を一にする親族を扶養している場合に適用される所得控除です。
特定扶養親族として認められるのは、その年の12月31日現在で19歳以上23歳未満の親族です。この年齢層は、大学や専門学校への通学に伴う教育費や生活費の負担が重くなる時期と重なるため、一般の扶養親族よりも控除額が優遇されています。
具体的には、所得税で63万円、住民税で45万円という控除が適用されます。
しかし、この特定扶養親族の適用には重要な要件があります。
それは、扶養される側の年間の合計所得金額が48万円以下※であることです。
※給与収入のみの場合、年収103万円以下。この「103万円の壁」を超える収入があった場合、納税者側は特定扶養親族としての控除を受けられなくなり、結果として世帯全体の税負担が増加するという点が、多くのご家庭にとって課題となっていました。
3.新たに登場した「特定親族」:令和7年度税制改正の目玉
そして、皆様の関心が高いであろう、令和7年度の税制改正によって新設された制度、その対象となる「特定親族」についてです。これは、「特定親族特別控除」という、これまでの扶養控除とは異なる新たな所得控除の対象となります。
この「特定親族」も、年齢要件は従来の特定扶養親族と同様に19歳以上23歳未満の親族です。
しかし、最大の変更点は、その所得要件の大幅な緩和にあります。
新制度では、特定親族であるご子息・ご息女の年間の合計所得金額が58万円超123万円以下の場合でも、納税者の方が段階的に控除を受けられるようになります。
給与収入に換算すると、概ね年収123万円超188万円以下に相当します。
これにより、これまでの「103万円の壁」を超えても、直ちに控除がゼロになるのではなく、アルバイト等で一定の収入を得た場合でも、親御さんが税制優遇を受け続けられるようになります。
この改正は、いわゆる「年収の壁」問題を解消し、学生が学業と両立しながら無理なくアルバイト収入を増やすことを後押しするとともに、親御様の税負担が急激に増すことを抑制する目的で導入されます。
4.「特定扶養親族」と「特定親族」の明確な違いと今後の活用戦略
項目 |
特定扶養親族(従来) |
特定親族(新設) |
制度名 |
扶養控除(特定扶養親族控除) |
特定親族特別控除 |
対象年齢 |
19歳以上23歳未満 |
19歳以上23歳未満 |
所得要件 |
合計所得金額48万円以下(給与年収103万円以下) |
合計所得金額58万円超123万円以下(給与年収123万円超188万円以下) 控除額63万円となるのは合計所得85万円(給与年収150万円以下) |
控除額 |
所得税:63万円、住民税:45万円 |
特定親族の所得に応じ変動(3万円~最大63万円) |
この表からもわかるように、「特定親族」は年収123万円を超えても188万円までは段階的に控除を受けられる新しい制度を指します。
令和7年度以降は、ご子息・ご息女の年間の合計所得に応じて、以下のいずれかの適用となります。
・合計所得58万円以下の場合(給与年収123万円以下): これまでの特定扶養親族と同様、親御様が「扶養控除(所得税控除63万円)の適用を受けます。
・合計所得58万円超123万円以下の場合(給与年収123万円超188万円以下): 親御様が新設される「特定親族特別控除」の適用を受けます。控除額はご子息・ご息女の所得に応じて段階的に減少します。
・合計所得123万円を超える場合: 親御様は「特定親族特別控除」の対象外となります。
5.まとめ
今回の税制改正は、ご家庭の税負担と、お子様の働き方に大きな影響を与える可能性があります。
これまでは「103万円の壁」を意識してアルバイトを調整していたご家庭も、今後は年収123万円~188万円までを視野に入れた働き方を検討できるようになります。
ご自身の家庭状況において、どちらの制度が適用されるか、またどの程度の控除が受けられるかなど、具体的なシミュレーションをご希望の際は、ぜひ当事務所にご相談ください。