1. はじめに
早いものでもう5月も半ばとなり3月決算の申告の期限が近づいてきました。
決算おける検討事項の一つに、来期の役員報酬があるかと思います。
そこで、今回は改めて定期同額給与と事前確定届出給与についてお話したいと思います。
2.役員給与の原則と損金不算入
まず、会社法上の役員(取締役、会計参与、監査役、執行役など)に対して支給する給与は、原則として法人の所得計算上、損金として認められません(法人税法第34条)。
これは、役員が会社の経営を左右する立場にあるため、恣意的に損金処理を行うことを防ぐための規定です。
しかし、一定の要件を満たす役員給与については、例外的に損金算入が認められています。
その代表的なものが、これから解説する「定期同額給与」と「事前確定届出給与」です。
これらの制度を正しく理解し、適切に運用することで、税務上のリスクを回避し、適正な損金算入を行うことが可能となります。
3.定期同額給与とは
定期同額給与とは、役員に対して毎月、一定の額を支給する給与のことです。
3.1 定期同額給与の要件
定期同額給与として損金算入が認められるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
①毎月支給:原則として、毎月継続して支給される給与であること。
②同額支給:各支給期の支給額が同額であること。
3.2 定期同額給与のポイント
・期中の変更は原則不可:事業年度の途中で役員給与の額を変更した場合、変更前後のいずれの金額も損金不算入となります。
ただし、以下の改定については、例外的に認められています。
①会計期間開始の日から3カ月までにされた給与改定
②役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更
③法人の経営状況の著しい悪化
3.3 定期同額給与の注意点
・業績悪化による減額:経営状況が著しく悪化したため、役員給与を減額せざるを得ない場合、その事実を客観的な資料に基づいて説明する必要があります。
単なる法人の一時的な資金繰りの都合や業績目標値に達しなかったことなどによる減額は認められません。
4.事前確定届出給与とは
事前確定届出給与とは、株主総会等の決議によって、支給時期が定められている役員給与のうち、所轄税務署長に事前に届け出た金額と同一の金額を、定められた時期に支給するものです。
4.1 事前確定届出給与の要件
事前確定届出給与として損金算入が認められるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
①株主総会等の決議:役員の職務内容、支給時期、支給金額が具体的に定められた株主総会、社員総会またはこれらに準ずるものの決議(以下「株主総会等」といいます。)が行われていること。
②届出書の提出:上記1の決議内容に基づき、「事前確定届出給与に関する届出書」を、その株主総会等の決議をした日から1か月以内かその会計期間開始の日から4カ月を経過する日のいずれか早い日までに、所轄税務署長に提出すること。
③届出内容との同一性:実際に支給する給与の金額および支給時期が、届け出た内容と完全に同一であること。
4.2 事前確定届出給与のポイント
・支給時期の特定:毎月支給する給与だけでなく、賞与のように特定の時期に支給する給与も対象となります。
ただし、支給時期は具体的に定める必要があります(例:「〇月〇日」、「〇月」だけでは認められない可能性があります)。
・金額の固定:届け出た金額から増額または減額して支給した場合、その全額が損金不算入となります。
・届出期限の厳守:届出書の提出期限を過ぎた場合、事前確定届出給与として認められません。
5.事前確定届出給与と定期同額給与の選択と実務
企業においては、役員の職務内容や給与体系、経営戦略などを考慮して、事前確定届出給与と定期同額給与を適切に選択する必要があります。
・毎月固定の給与が中心の場合:定期同額給与を選択し、毎月同額を支給することが基本となります。
・賞与を支給したい場合や非常勤役員などの報酬を年棒で支給したい場合:事前確定届出給与の制度を活用し、支給時期と金額を事前に確定して届け出る必要があります。
実務上は、株主総会議事録の作成、届出書の作成・提出、給与台帳の管理など、適切な手続きを行うことが重要です。
特に、届出書の記載内容に不備があったり、届出期限を過ぎてしまったりすると、損金算入が認められないため、細心の注意が必要です。
6.まとめ
役員給与の取り扱いは、税務調査においても重点的にチェックされる項目の一つです。
税務上のリスクを回避し、適正な会計処理を行うためには、事前確定届出給与と定期同額給与の制度を正しく理解し、適切に運用することが不可欠です